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傷のきれいな治し方

H30.9.29に行われた第16回宮城手の外科セミナーに参加してきました。

1日かけてみっちり手の外科を勉強しました。どの先生の講演も大変勉強になり、刺激を受けました。特に印象に残ったのは、日本医科大学形成外科教授 小川令先生の創傷・瘢痕治療の講演でした。物理的な力によって細胞が影響をうけるメカノバイオロジーという概念を、臨床に応用した点がとても革新的です。外科系の医師であれば、ぜひとも受けておきたい講演です。

以前のブログで小川先生の日整会の教育研修講演をまとめましたが、今回の講演もまとめてみます。

『手外科における創傷・瘢痕治療の最新理論と実践』

肥厚性瘢痕・ケロイドの原因は皮膚の真皮の深いところ、真皮網状層で続く慢性炎症で、皮膚が引っ張られることで、傷に物理的な力がかかっているところに起こる。皮膚がよく動く、胸部、肩、腹部はケロイドの好発部位となる。一方、皮膚が動かない、頭頂部、前脛骨部、皮膚がゆるい上眼瞼はケロイドができにくい部位である。整形外科は関節という動く場所を切るので常にケロイドのリスクがある。また、早期リハビリで炎症が続いてしまうこともリスクとなる。

このケロイドの発生の仕組みを逆手に取ったのが陰圧閉鎖療法。陰圧閉鎖療法は、湿潤療法と過量の浸出液を吸収する以外に、創面に加わる物理的な刺激で活動性が上がることで早く治るのではないかと考えられる。

高血圧がある、若い女性(ホルモンの関係)、体に目立つ傷痕がある方はケロイドのリスクが高く特に注意する。

手術部位感染(SSI)、肥厚性瘢痕・ケロイドの予防するためには傷にかかる力を最小限にすればよい。

 ①皮膚表面、真皮に過剰な力がかからないように縫合する

肥厚性瘢痕・ケロイドは真皮の網状層から発生するので、表皮を減張するのではなく、真皮の網状層を減張するようにしなければならない。そのためには、深いところをしっかり縫い(深筋膜は0PDS、浅筋膜は2-0,3-0PDSで縫合)、真皮縫合をしなくても創縁が勝手に密着する状況を作ることが大切。真皮縫合で寄せたらダメ。その後、軽く創面を合わせるように、4-0,5-0PDSで真皮縫合、5-0,6-0ナイロンで表面縫合をする。

膜構造は横方向の血流で強く縫っても壊死しないが、脂肪層は縦方向の血流で縫うと簡単に壊死する。膜構造を意識して縫合することが大事。

②切開の向きを考える

切開の向きは皮膚の動きと直交するようにすればよい。方向を変えられない場合は力の分散を考え、Z型に切開し、傷にかかる力を分散する。

腹部 腹直筋は上下の動きなので、横切開が良い。帝王切開は横切開なので理にかなっている。

胸部 大胸筋で横方向に引っ張られるので縦の切開が良い。胸部正中切開はケロイドのリスクが少ない。

膝 関節は上下に動くので横切開がよい。縦切開の場合は1か所でいいからZ切開とする。

顔 RSTL(Relaxed Skin Tension Line) 、皺に沿った切開をする。皺は引っ張られる方向と直交する線。

前腕 回内・回外の動きを考え「雑巾絞りの法則」に沿った、斜めの切開が良い。手関節を屈曲尺屈すると斜めの皺が見えるので皺のラインで切開する。

③十分なテープ固定

術後や外傷後、1週間程度で表面は治っても、真皮は3か月経過して80%治る。創を安静に保ち肥厚性瘢痕・ケロイドを予防するため、テープ固定は3~6ヶ月間行うことが勧められる。

傷にテープを張る向きは、傷が開かないように貼るのではなく、皮膚が引っ張られる方向に貼ると良い。例えば、腹部は縦に切っても縦に貼る。胸は横に貼る。膝は縦切開でも縦に貼る。

しかしテープの貼る向きをいちいち考えるのは大変なので、360°動かない1枚の大きなテープで貼ってしまえばよい。

テープの種類
アトファイン®(ニチバン)700円 かぶれにくく使いやすい
シリコーンジェルシート 4000円 高いのが欠点
ポリエチレンジェルシート(傷あとケアシート®)2000円 洗って何回も使える
シリコーンテープ 3000円 1番良い かぶれない
サージカルテープ 250円 いい点は軟膏もクリームも浸透するのでテープをはがさず、テープの上から軟膏やクリームを塗ることができる

④早期から副腎皮質ホルモンのテープ剤を用いる

肥厚性瘢痕・ケロイドが生じたらすぐにステロイドのテープを使用する。炎症をとるために皮膚の表面からステロイドを投与する感覚。リハビリをしながらでも使える。

現在使えるテープは2種類。
ドレニゾンテープは弱いステロイドでかぶれやすい。小児に使う。
エクラープラスターはストロングで効果が高い。テープによる接触性皮膚炎も抑えてしまう。大人で関節など力がかかるところは全てエクラープラスターにしているとのこと。

⑤適切な縫合糸を使用する

術後2年以降に起こる晩期感染は、体調を崩した時に細菌が血中を回って縫合糸についてしまうことで起こる。できるだけ異物は体に残したくないので、吸収糸を使う。縫いづらくても、バイクリルよりPDS(3ヶ月間張力を維持する)を選ぶと良い。抗菌薬でコーティングされた糸を使うことも考慮する。

(投稿者:斉藤 揚三)