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心不全を家で最期まで診るためには

2016年度の在宅医学会大会において、
「心不全を家で最期まで診るためには」のテーマで ゆみのハートクリニック 弓野 大 先生の講演がありました。
ゆみのハートクリニックさんでは、在宅で急性心不全の治療から、植込み型補助人工心臓の管理まで、かなり幅広く行っているようです。また、心不全の多職種チーム医療として、看護師による管制塔システムというものや、訪問心臓リハビリテーションも行っているようです。
講演では心不全治療を大きく、安定期、増悪期、終末期の3つのステージに分けてお話しいただきました。忘備録として講演内容を以下に載せておきます。

○急性心不全の予後(ATTEND registry
心不全で入院した患者の長期予後
院内死亡率6.4%1年死亡率21.8%1年死亡率/再入院率37.9% 
→非常に予後が悪い疾患

○心不全の病状進行のパターン
がんと違って、入院するたび、増悪するたびに病状(心機能・自立度)は進行していく。
循環器科医はいかに増悪を抑えるか、慢性期管理をどのように行うのかを注目している。

●心不全安定期

高齢者への医療指針
1.生活環境を考えよう
2.薬はシンプルに 足し算の医療はしない
3.意思決定支援を
4.介護負担の軽減を
5.多職種チーム医療で

○慢性心不全管理プログラム
退院後2~4週間で再入院の方の半分が入院
→2週間以内に訪問診療に入る
1週間で2kg以上体重が増えたら連絡してもらう
体重の管理 悪い人なら11回 悪くない人でも1週に1回は体重測定
自分で無理な人は訪問看護が入ったときは必ず体重を測定する。

○症状がない隠れ心不全 
無症候性 ステージA,B  症状が表に顕在化する前に診るのが大事

○2種類のうっ血
①臨床的うっ血 目に見えるうっ血
②血行動態的うっ血 目に見えないうっ血 いかに感知するか
血行動態的うっ血 BNPでみる 個体差があるが一人の患者の中でよくみる
BNP 100を超えたら心臓に負担がかかっていると考え専門医への紹介も考える。

○心不全の病態
拡張不全 EF>50%、収縮不全 EF<50%

○急性心不全患者における収縮不全(reduced EF)と拡張不全(preserved EF)の割合
54.9%と45.1% ほぼ同じ
収縮不全と拡張不全の予後は変わらない。

○収縮不全 標準薬物治療をしっかり
早い段階からACE阻害薬またはARB
次にβ遮断薬
症状がでてきたら利尿剤を少量
抗アルドステロン薬を入れる

○拡張不全 
高齢者の7割が拡張不全の心不全と言われている
予後を良くする薬はない
症状のコントロールが大事 エビデンスがあるのが硝酸薬と利尿薬

○利尿薬
ループ利尿薬の単剤の大量投与は、腎機能の低下や交換神経系、RASの亢進でよくない
いくつかの薬を上手に少量使っていくと良い

○心不全患者におけるループ利尿薬の種類と特徴
Bioavailability (血中に入ってきちんと作用するか) ルプラック80% 、ダイアート10%
容量依存性に対応できるのがルプラック(+抗アルドステロン作用もある)

○慢性心不全の利尿薬の種類と使用例
ルプラックを少量加えて、カリウムに注意してアルダクトンを入れる(50mgまでいけば肺うっ血を抑えられるだろう)、要所要所でサイアザイド系を加える

●心不全増悪期
急性増悪前の自覚症状
症状をひとつひとつ聞く、診る
息切れ92%
体重増加60% 食欲低下で脂肪・筋肉が落ちてきて体重が変わらなくても増悪する例あり
急性呼吸困難37%、下肢浮腫35%、発作性夜間呼吸困難28%、易疲労感17%、動悸7%

○左心不全と肺うっ血
左心不全の症状 肺うっ血、呼吸困難、起座呼吸
症状は派手
低酸素を起こす
循環器科医は左心不全の治療の方が楽
大学病院では院内死亡率 2%以下

○心不全患者は睡眠、臥床にて体液シフト→頚部と肺のうっ血→発作性夜間呼吸困難
夜間の睡眠状態、呼吸状態を観察する チェーンストークス呼吸 
明け方に無呼吸になるがいびきがない(はじめはいびきをするが、明け方ない)のは悪いサイン。
夜間の無呼吸の検査をして、陽圧呼吸の適応となる。

○右心不全と全身のうっ血
右心不全の症状 体液の貯留 下肢浮腫、体重増加 ゆっくり増えてくる
肝の腫大、頚静脈怒張、静脈圧の上昇

○高齢者心不全では下肢浮腫が起こりやすい。
家から施設に入った患者は足がむくむ →長時間の座位姿勢、筋力低下による生理的なもの

○急性心不全のクリニカルシナリオ(CS)と治療
CS1 SBP>140 fluid shift 体液が一時的に移動しているだけ NPPV 硝酸薬
CS2 SBP100-140 NPPVおよび硝酸薬 利尿薬 

○陽圧呼吸は肺うっ血を軽減する
酸素化能の改善、前負荷の減少、後負荷の減少、呼吸仕事量の減少
→血行動態に対し有益な影響を与える

急性心不全に対する治療ガイドライン
レベルA クラスⅠ 酸素投与で無効の場合にNPPV

○心不全:肺うっ血と設定圧
PAWP>12mmHg以上 CPAP4-8cmH2Oなら安心?(10cmを超えると心拍出量が低下し心不全を悪くする症例も)

○心不全増悪期に血管拡張薬をどう使う?
NTG(ミリスロール) ISDN(ニトロール)
硝酸薬の効果
Artery vs. Vein 拡張
NTG 1:1-2
ISDN 1:10
ISDN
(ニトロール)の方が急性心不全の患者によい
ISDNでは明らかにうっ血を改善する
ニトロールスプレー 舌下に1puffより2puffの方が効果的(1回空打ちする)
重度の心不全患者さんではニトロールを自宅に配備して夜苦しいときに使ってもらう 治療的診断にもなる 効果があれば心不全 朝まで効果も持続する

意識障害の既往がある重度ASの患者さんは突然死することを家族に説明する。

○高齢者における急性心不全患者の在宅管理の有用性
在宅ケア患者に限っては、うつ症状、栄養状態、生活の質のスコアが改善したというデータがある。

●心不全終末期
症状も多彩 息切れ・倦怠感90%、痛み75% (がんの痛みとも違う)
呼吸困難の評価ポイント 不安感を伴っている症例が多い
呼吸困難に対するモルヒネの適応 ①低酸素血症がない②呼吸回数<20/分でない③痰が多くないこと

末期心不全の在宅看取りのポイント
1. 適切な心不全治療を行う
2. 早い段階での意思決定
3. 介護負担への介入を考える
4. 多様な症状を定量的に判断し対応
5. 病態や治療を理解する(チェーンストークス呼吸や埋め込み型助細動器作動など)
6. 輸液は可能な限り控える
7. 在宅酸素療法、在宅人工呼吸器、ベンゾジアゼピン系内服薬または鎮静座薬、オピオイド類の4つの道具を症例に応じて使用

モルヒネは心不全であっても使える。コメントを書けば、保険で切られたことはない。
終末期ではACE阻害薬、β遮断薬をやめる選択肢はある。

(投稿者:斉藤 揚三)