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運動量を増やしても認知症予防に疑問

積極的に運動をしている人の認知症リスクが低いことを報告した研究は複数あったが、それらは逆の因果関係を見ていた可能性が指摘された。仏INSERMのSeverine Sabia氏らは、35~55歳の人々を平均27年追跡して、中年期の運動量とその後の認知機能の低下や認知症発症リスクに有意な関係は見られなかったと報告した。しかし認知症患者は、最長で診断の9年前から運動量の減少が起こっていた。結果は、BMJ誌電子版に2017年6月22日に掲載された。

 現在のところ認知症の治癒は叶わないため、予防や進行を遅らせるための介入の標的になる危険因子の探索が、精力的に行われている。観察研究を対象としたメタアナリシスでは、望ましい量の運動が認知機能の低下と認知症発症のリスクを低減することが示唆されている。しかし、運動量を増やす介入研究では、長期的な認知症予防効果は見られなかったものが多い。

 そこで著者らは、認知症患者は症状発現前から運動量が減少する特徴がある、という仮説を設定し、それらについて検証するために、ロンドンにオフィスがある英国公務員が参加して現在も継続中のコホート研究「Whitehall II」から、約30年にわたるデータを調べることとした。それらを利用して、運動量とその後の認知機能の変化や認知症発症率の関係を調べ、次に認知症と診断された患者の診断前28年間の運動量を、認知症を発症しなかった人と比較することにした。

 Whitehall IIは1985~88年に35~55歳だった参加者を募集し、応募した1万308人(男性6895人、女性3413人)の健康状態を追跡している。参加者は5年ごとに受診して診察を受け、直近の評価は2012~13年に実施していた。

 参加者の運動量の評価は質問票を用いて行い、28年超の間に7回実施した。家事や草むしりといった軽度の作業から、ランニングやスカッシュなどのスポーツまで様々な強度の運動を、どのくらいの頻度でどのくらいの時間実施したかを回答してもらい、運動量を推定した。MET(Metabolic Equivalent)換算で3未満は軽強度の運動とし、3以上は中~高強度として、それらの合計を総運動量とした。中~高強度運動を週に2.5時間以上行っていた場合に「望ましい運動量」と判断した。

 認知機能の評価は1997年(参加者の年齢は45~69歳)から2013年(60~84歳)までの間に最大4回行った。記憶力は20個の単語を2秒間隔で提示された後、2分間でできるだけ多くの単語を思い出す方法で評価した。実行能力はAlice Heim4-I テストにより評価した。音素流暢性は「sから始まる単語を書く」といった方法で、意味流暢性は「できるだけ多くの動物の名前を書く」といった方法で評価した。それらの生スコアを平均値0、標準偏差1の分布にzスコア化して、さらにそれらの合計を再標準化して認知機能の全般スコアとした。

 認知症の発症者は、2015年3月31日までのNational Health Surviceの医療記録や死亡記録を調べて同定した。共変数として、社会人口学的要因(年齢、性別、人種、配偶者の有無、就労状態と年収、学歴など)、ライフスタイル要因(飲酒、喫煙、食習慣など)、併存疾患などに関する情報を得た。

 平均値で26.6年の追跡期間中に329人が認知症と診断されており、診断時の年齢は平均75.0歳(四分位範囲72.0~79.2歳)だった。運動量と認知機能の低下の関係は、1997~99年の1回目の認知機能評価を受けていた7424人を対象に行った。うち、3144人(42%)は4回の認知機能検査を完了しており、2168人(29%)は3回、1091人(15%)は2回、1021人(14%)は1回検査を受けていた。

 「望ましい運動量」を実施していた参加者としていない参加者を比べても、認知機能の全般スコアに有意な差はなかった。1997~99年から15年間で全般スコアは平均で0.61(95%信頼区間0.59-0.63)減少していたが、運動量とスコアの減少に有意な関係は見られなかった。

 1985~88年の運動量と2015年まで追跡した認知症患者の発症率の関係を調べたが、それらの間にも有意な関係は認められなかった。望ましい運動量を実施していた人をリファレンスにした、実施していない人のハザード比は1.00(95%信頼区間0.80-1.24)だった。

 認知症を発症した患者とそれ以外の参加者の間で、追跡期間中の1週間あたりの総運動時間、低強度の運動をした時間、中~高強度の運動をした時間を比較すると、診断の9年前から認知症患者の運動時間は減少し始め、認知症と診断されなかった人々との差は、それ以降有意になった。診断の9年前の、両群の中~高強度の運動時間の差は-0.39時間/週(P=0.05)で、診断時点ではその差は-1.03時間/週(P=0.005)に拡大していた。

 これらの結果から著者らは、望ましい運動量を行っている人でも認知機能を保護する効果はなかった。認知症患者では症状が明らかになる前から運動量が低下しているため、運動に認知症リスクを減らす効果があるように見えたことが示唆されたと結論している。

原題は「Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study」

2017/7/18 日経メディカルより

これはおもしろい論文です。卵が先かニワトリが先かという議論と一緒ですね。
つまり、認知症になると運動しなくなるので、運動しない人が認知症になるようにみえるということです。
先日紹介した大崎市での研究とは相反する結果です。
運動で認知症が予防できると思いたいのですが・・・。

(投稿者:斉藤 揚三)