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医療・介護現場における正常性バイアス

正常性バイアスとは、自然災害などの予期しない出来事が起こった際に、「自分は大丈夫」などと楽観的に考え、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう人間の特性を言います。

東日本大震災の際にも、正常性バイアスによって、津波から逃げ遅れた方が多かったのではないかと言われています。

さて、医療・介護現場でも患者に予期しない出来事が起こることがありますが、医療介護スタッフにも、正常性バイアスがかかる可能性があります。

当院の症例です。

症例1:90歳台で施設入居中の患者。朝5時に嘔吐があり、その際のバイタルサインが、血圧48/30、脈拍82、体温38.2℃、SpO2 81%でした。その後、血圧が上がってきたとのことで連絡はなく、8時30分頃に連絡がありました。

5時の段階でショックバイタルであり、その時点で連絡してもらって良いケースでした。おそらく、早朝だったため電話を躊躇してしまったのと、その後血圧が上がってきたために様子をみるという選択をしたのではないかと思われます。

症例2:90歳台で施設入居中の患者。朝から血圧が測れない状態だったが、連絡はなし。食事が摂れないという連絡が昼前にあった。

血圧が測れないのが、血圧計の故障と判断されたようでした。しかし、実際には血圧が低すぎて測れなかったのでした。

どちらとも、往診のうえ、病院に救急搬送して対応しましたが、往診前に心肺停止状態になってもおかしくありませんでした。このように、バイタルサインが安定しない方を放置しているのは危険です(看取り段階にある方は別です)。

「血圧が上がってきたから様子を見ていても大丈夫ではないか?」、「機器が故障しているのではないか?」などと都合良く解釈すると、失敗の原因になります。

医療というのは人の命がかかっているのでミスは許されません。常に最悪の状況を想定して行動した方が安全です。

本田圭佑選手は以下のように言っています。

「人間って、気が緩んでいないと自分では思っていても、気が緩んでいるもんだと思うんです。それをどうやって引き締めるかといったら、『もうくどいほど自問自答するしかない』と思っているんですね。大丈夫か?と。準備できてるか?と」

これは、医療介護スタッフにも当てはまります。

(投稿者:斉藤 揚三)