がん治療における緩和ケアの重要性
栗原市医師会学術講演会 2018.7.19
「がん治療における緩和ケアの重要性」
東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野 教授 井上 彰 先生
講演では、早期に緩和ケアを導入するメリット、過剰輸液の問題、基本を押さえることの大切さなどを教えていただきました。また、在宅医療についても取り上げられました。「在宅医療の医療機関によっては、緩和ケア病棟と同レベルの高度な緩和ケアも可能」とのお話もあり、当院もさらに高度な緩和医療を提供できるように精進してしていきたいと思います。
講演の内容を箇条書きにしてまとめてみました。
・2007年に施行された「がん対策基本法」が2016年に改定され、従来のがん治療3本柱(手術、放射線療法、化学療法)と同列に緩和ケアが位置づけられた。緩和ケアはがんをたたくわけではないが患者を楽にする立派な治療。
・2010年に発表された進行肺がん患者に対する臨床研究によれば、早期に緩和ケアをうけた群では標準治療群よりもQOLが高く維持され、抑うつの発症頻度は明らかに少なかった。さらに驚くべきことに、緩和ケア群の生存期間が延びた(両群とも抗がん剤の量に差はなかったが、緩和ケア群では終末期に抗がん剤治療をうけなかった=適切な時期に適切な治療がうけられた)。
・常に重要なのは症状緩和とコーピング支援(精神的サポート)。
・適切な治療選択とACP(アドバンスケアプランニング、家族を含めて患者と先々の話をする)が患者のQOL維持に役立つ。
・日本での遺族調査では、2/3が亡くなる1か月前まで抗がん剤治療を受けていたと答えている=日本でも不必要に長く抗がん剤が使われているケースが多いと推測できる。
・10年前まではどんな標準治療をしても肺がんの余命は1年前後だったが、最近は分子標的薬がでてきて2-3年、さらに免疫療法がでてきて3-4年になってきている。新しい治療により劇的な効果が出る方もいるが、いずれ再増悪することは伝えなければならない。
・固形がんは抗がん剤では治らない(病勢を抑えるだけ)と話していても、患者にアンケートをとると約半分が抗がん剤で治ると思っている。
・抗がん剤だけを引っ張りすぎて緩和ケアの話が先送りになると、患者は見捨てられ感を味わうことになる。治療中の段階から、抗がん剤治療の先にあるものを適切に伝えるのも、がん治療医の役目。
・緩和ケアを受けるタイミング:予後6-12か月の段階。予後1年未満と診断されてから1か月以内。初回または2次治療がうまくいかない時。
・基本的な緩和ケアで8割の問題は解決する。
・NSAIDsやアセトアミノフェンを軽視しない(オピオイドだけ処方されているケースがある)。
・オピオイドの増量ペースが速いときは現治療の妥当性を疑う。
・フェンタニルをつかっているから自動的にレスキューはアブストラル舌下錠(1日4回の制限がある)とはしない。
・点滴を少なくする。
呼吸困難でゼコゼコしているひとに点滴は天敵!緩和ケア病棟にくる方の半分以上は輸液が多すぎる。残り1か月では点滴はいらない。500mlでも多いことがある。東北大学病院緩和医療科では皮下輸液をしている。当然高カロリー輸液はいらない。口の渇きは点滴で良くならないことは証明されている。口の渇きには口腔ケアが一番良い。終末期の脱水は(適切な口腔ケアがなされていれば)苦しくない。どんどんドライにするほうが患者さんにとっては楽。点滴が多くなるのは家族の希望という側面が強いが、家族にきちんと説明すれば理解してくれる。
・ひどい便秘がせん妄の因子になることもある。
・予後が週単位=PPI>6.5になったら
①輸液を極力しぼる(1000ml/日以下)
②薬は最低限にする
③侵襲的な検査や処置はしない
・ほとんどのことは在宅でできる。在宅を希望する患者・家族に「この状態では帰れない」は禁句。
在宅緩和ケアのメリット
・住み慣れた環境で精神的に落ち着く
・生活のリズム(食事、睡眠)が患者中心
・家族にとっても生と死を考える良い機会
在宅緩和ケアのデメリット(多くは認識不足から懸念される)
・急変時に対応できない
→終末期の急変は慌てることなのか?
・必要な検査、治療が受けられない
→そもそも終末期に必要なものは僅か
・子供に悪影響を及ぼす
→死から遠ざける方がよほど死生観を歪める
・人手がない
→その通りかも(まずは介護サービスをフル活用するべし)
・臨床経験年数と緩和ケアの知識は優位に逆相関がみられる=緩和ケアに関しては若い医師が変えていかなければならない!
・東北大学病院では、STAS-J(苦痛のスクリーニング)を全がん患者に週1回は看護師がスクリーニングすることになっており、3以上であれば緩和医療科に連絡が来るようなシステムを作っている。攻めの緩和ケアを実践している。
(投稿者:斉藤 揚三)