バイタルサインとはなにか?
医療の現場では「バイタルサイン」という言葉がよく使われます。単に「バイタル」と略されることも多いです。
医者が「バイタルは?」と看護師に聞くと、看護師から「血圧は120の74、プルスは82、サーチは98です」などの返事が返ってくるといった具合です(ちなみにプルスとは脈拍(心拍数)、サーチとは「動脈血酸素飽和度(経皮的に測定した予測値)」のことです)。
時折、「バイタルは?」と聞くと、「120の74です」のような答えしか返ってこないこともあり、「バイタルって血圧のことだと思ってるの?」とツッコミを入れたくなり、正直ガッカリした気持ちになります(当院での話ではありません)。
では、そもそもバイタルサインとはなんなのでしょうか?
血圧、脈拍、動脈血酸素飽和度の3つのことなのでしょうか?
これは、医学生や看護学生でも知っているような基本的な事だと思われがちですが、この本質的な問いにしっかり答えることのできる人は少ないと思います(医療者でも正答率は高くないと思います)。
バイタルサインは英語では「 Vital Sign 」と書き、和訳すれば「 生命兆候 」となります。つまり
「生きているのか?」
「死んでいるのか?」
「死ななそうなのか?」
「死にそうなのか?」
「死にそうだとすれば、どの程度死にそうなのか?」
の指標というわけです。
ところで、人が生命を維持するためには、なにがなくとも、以下の①~⑤が必要です。
①呼吸ができていること。
②呼吸によって、体に酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すことができること。
③酸素を全身に送り届けるための血液(およびその成分)が十分に存在すること。
④血液を全身にめぐらせるためのポンプ(心臓)がしっかり機能していること。
⑤血液が流れて全身をめぐるためのパイプ(血管)に問題がないこと。
つまりこの①~⑤が正常かどうかを見るためのサイン(身体所見)が、バイタルサインということです。
①は呼吸数・呼吸様式をみればわかります。②は動脈血酸素飽和度(および呼気二酸化炭素濃度)やチアノーゼ所見の有無をみればわかります。③~⑤は直接みるのは難しいですが、血圧・心拍数・不整脈の有無をみれば大体わかります。
さらに、①~⑤に問題がない結果として、脳や心臓、肺、肝臓、腎臓などの重要臓器が正常に働くことができます。それが、意識が正常であったり、尿が十分にでているという結果につながります。つまり、意識レベルや尿量もバイタルサインです。
さらに生命を脅かすような感染症が起これば、炎症の結果として熱がでますし、異常な温熱環境・寒冷環境への暴露によっても生命活動は脅かされます。そういう意味では体温も重要なバイタルサインということができます。
以上のことから「バイタルサインとは(現在の臨床医学では)、呼吸数、呼吸様式、動脈血酸素飽和度(SpO2)、チアノーゼ所見、血圧、脈拍、不整脈の有無、意識レベル、尿量、体温のことである」と言えるでしょう。
バイタルサインについては、さらに言いたいことがあるので、近いうちにつづきを書く予定です。
(投稿者:斉藤 群大)