不定愁訴が服薬調整により改善した症例
症例:80代女性 施設入居中
在宅医療に至った経緯:関節リウマチ、腰部脊柱管狭窄症、変形性膝関節症、高血圧などで近医に通院していた。体の痛み、筋力低下、意欲低下などのため寝ている時間が多くなった。体調不良や気分の浮き沈みが多くなり、通院が困難なため当院に訪問診療が依頼された。
診察してみると、以下のようなさまざまな訴えがありました。
頭が重い、苦しい、熱くなる、締め付けられる。体温調節がうまくいかない。動くと息切れがする。動悸がする。風邪症状が続いている。下肢が冷える。目の周りがかゆい。唇が渇く。
<前医の処方>
エブランチルカプセル15mg 1C
レニベース錠5mg 1錠
プレドニン錠5mg 1錠 分1 朝食後
タケプロンOD錠15mg 1錠
アムロジンOD錠5mg 1錠
プログラフカプセル 2C 分1 夕食後
トラマールOD錠25mg 4錠
バルサルタンOD錠40mg 2錠 分2 朝夕食後
デパス錠0.5mg 3錠
オパルモン錠5μg 3錠 分3 毎食後
リリカOD錠75mg 1錠
芍薬甘草湯2.5g 分1 就寝前
当院の治療経過
#1 関節リウマチ
プレドニン5mg、プログラフ2mg、トラマール100mgが処方されていました。手関節に軽度の疼痛がある程度で、CRP1.0以下で、関節リウマチは良好にコントロールされていました。特に問題はありませんでしたが、トラマールは認知機能に影響を及ぼす可能性があり、減量する目的で、トラムセット2錠に変更しました。これにより、トラマドールは100→75mgに減量されましたが、疼痛の増悪はありませんでした。
#2 腰部脊柱管狭窄症
オパルモン、リリカ、芍薬甘草湯が処方されていました。疼痛は関節がメインであり、腰部脊柱管狭窄症に対する処方は優先度が低いと判断。オパルモンは効果が期待できないため中止。リリカは2017年のNEJMで坐骨神経痛に対する効果が否定されており、また、心不全や認知機能に影響を及ぼす可能性があり中止。芍薬甘草湯は高血圧の原因になっている可能性があり中止しました。
#3 高血圧症
エブランチル15mg、レニベース5mg 、アムロジン5mg、バルサルタン80mgが処方されていました。 芍薬甘草湯を中止したためか、血圧が低くなったため、最終的にアムロジン2.5mg、バルサルタン40mgに減量しました。
#4 神経症
デパス3錠が処方されていました。デパスは認知機能の低下やふらつきにより転倒リスクが増加します。1カ月ごとに1錠ずつ減らしていき、3カ月で中止しました。
#5 鉄欠乏性貧血
初診時の血液検査で、Hb9.6g/dL、MCV89fL、フェリチン7ng/mLと鉄欠乏性貧血を認めました。不定愁訴には鉄欠乏が関係しているのではないかと考えました。フェロミア錠50mg 2錠を追加しましたが、内服すると頭痛がおこるとのことで、インクレミンシロップに変更しました。小児量のインクレミンシロップであれば、問題なく内服できました。約10カ月で、Hb12.8g/dL、MCV101fL、フェリチン59ng/mLまで改善しました。
<現在の処方>
アムロジン錠2.5mg 1錠
プレドニン錠5mg 1錠
タケプロンOD錠15mg 1錠 分1 朝食後
バルサルタン40mg錠 1錠
プログラフカプセル1mg 2C 分1 夕食後
トラムセット配合剤 2錠
インクレミンシロップ5% 6ml 分2 朝夕食後
結果的に常用内服薬は12剤から7剤に減りました。薬の減量と鉄剤の処方により、今まではさまざまな訴えをしていた患者さんから「力がでてきた」という発言がありました。施設のスタッフからも明らかに以前よりも訴えは減り、良くなっていると言っていただいています。
(投稿者:斉藤 揚三)