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在宅医療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス

『高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス』(上田剛士、Signe)という本は、身体診察のエビデンスが満載で、とても勉強になります。在宅医療ではできる検査も限られるため、身体診察がより一層重要になってきますが、この本により、根拠を持って診察できるようになりました。
無題
2016年度の在宅医学会大会で、表題のテーマで上田剛士先生の講演がありました。
本と重複する部分もありますが、要旨を忘備録の意味もあり載せておきます。
 
〇高齢者の感染症
高齢になると熱がでにくい
熱が出る方は出るが、熱が出ない方もいる
 
平熱と比べれば感度を高められる
感染の確率 平熱より1.3℃以上高い 79%>38.3℃以上の発熱  58%
今まで測定した中で一番低い体温を平熱と誤解している患者がいるので注意!
 
重症な感染症を示唆するもの
旧敗血症の基準(高熱、頻呼吸、頻脈のうち2つ)
新敗血症の基準qSOFA(意識障害、血圧低下、頻呼吸:大事、見えるバイタル)
悪寒戦慄 菌血症の可能性 OR2.2 80歳以上OR3.1
嘔吐 高齢者の菌血症の可能性 LR+2.2 LR-0.9
 
菌血症を疑えば尿路感染症31%  胆道感染18%が多い
 
〇高齢者の尿路感染
最も診断が難しい 無症候性細菌尿が多いから
尿道カテーテル入れると1日で10%細菌尿が出現する
診断は臨床判断しかない
 
CVA叩打痛は非常に重要
腎盂腎炎の診断はCVA叩打痛の有無で決まる
治療は14日間の抗生剤
CVA叩打痛のない男性の尿路感染は前立腺炎を疑う
座位で左右均等に叩く
腎臓の位置はCVAよりも下だったりする
→痛みがでなければ少し下を叩く 痛みを訴えられない患者もいるので顔をみながら行う
場合によっては翌日も確認する
 
恥骨上聴性打診 
恥骨の上に聴診器を当てる
示指と中指で交互に臍の上くらいから叩いていく
急に音が大きくなるところが膀胱上縁
恥骨から膀胱上縁の距離が6.5cmで200cc以上の残尿 200ccは初発尿意がある容量
聴診器の直径を覚えておくと便利
 
尿閉が疑われる場合、直腸診を行い、前立腺肥大症と神経因性膀胱(肛門括約筋緊張低下)を鑑別する
 
〇高齢者の急性腹症
胆道系疾患は年齢とともに増えてくる
腸閉塞、血管系疾患が多い
老いも若きも①腹膜炎や虫垂炎が多い
②胆道系③腸閉塞は高齢者に多い
④血管系疾患と悪性腫瘍を忘れない
⑤婦人科疾患は少ない
 
急性胆嚢炎、胆管炎の症候
右上腹部痛、背部への放散痛(コリンズ徴候)
心窩部痛、嘔吐、黄疸が高齢者に多い
Murphy徴候 70歳以上 感度48%と低い
高齢者は総胆管結石・化膿性胆管炎が多い Murphy徴候が陰性となる
肝叩打痛(左手を添えて右拳で叩く 左右差を比べる)の有用性 感度63%と高い
 
閉鎖孔ヘルニア 平均82才 96.5%が女性
Howship-Romberg徴候
靴の裏に付いたガムを確認するような姿位で大腿内側(閉鎖神経領域)に痛みが放散する 
 
S状結腸捻転症 視診で左下腹部が虚脱、空虚
小腸閉塞では逆に左腹部が膨隆することが多い
 
急性腹症で重篤な疾患
腸管虚血、腹部大動脈瘤破裂
激しい突然の腹痛が続くが腹膜刺激徴候ない場合に強く疑う
直径4cm以上がAAA破裂のリスク  高齢者、男性、喫煙者に多い  
疼痛の部位:お腹の正中が多いが、左下腹部、背部、心窩部のことも
放散痛の部位:左下腹部から鼠経、陰嚢、背部に
AAA破裂の誤診疾患 心筋梗塞、尿路結石
AAA破裂 腹痛76%、背部痛54%、ショック66%、拍動性腫瘤58%で認める 
誤診例、診断確定後は70%に拍動性腫瘤を触知(初診時は25%)→疑って触れば分かる
 
〇肺音の聴診
健常者におけるcrackles 45-64歳 11% 65-79歳 34% 80-95歳 70%
病的なcracklesかどうかの判断 1吸気でcrackleの数が2回以上
聴診器を服の上から肩を持って押し付ける程度の圧で音の喪失はなくなる
→服の上から聴診できる
 
〇高齢者の心雑音
高齢者の収縮期雑音の原因
50歳で50%に心雑音を認める fifty-fifty murmur
臨床的に問題になるのは AS 5.2% MR 3.9%
MRでは雑音聴取しないことも多い
高齢者の収縮期駆出性雑音 AS 20% MR 17% MRの除外が難しい
ASはかなり分かる 収縮期後期にpeakがあることで判断
 
急性呼吸不全における心不全の診断
心不全 頸静脈怒張、Ⅲ音の特異度が高い
心不全で入院する前に体重が増加する 
 
〇高齢者のCOPD
COPDの診断
気管短縮 輪状軟骨と胸骨の間に2横指入らない
Hoover徴候 吸気時に胸郭の下のほうがへっこむ
身体所見はレントゲンをイメージ
滴状心は心濁音界消失と心窩部心尖拍動で分かる
肺過膨張は気管短縮で分かる
横隔膜平坦化はHoover徴候で分かる
吸気早期のcrackles 口元に聴診器を当て聞く
 
〇高齢者の脱水 
口腔粘膜乾燥、舌縦皺 感度が高い
腋窩乾燥 得意度が高い 触った主観の判断で良い
 
〇高齢者の意識障害
自宅 脳血管障害 22.9%
施設 感染症 44.5%
 
身体所見はバイタル、神経所見、脱水状態、皮膚の状態、感染巣検索
肝性昏睡 毛細血管拡張 感度高い 
頭蓋内病変 SBP>160で可能性高くなる SBP<110で低くなる
昏睡でも確認できる神経所見
瞳孔径、対光反射、眼位、前庭眼球反射(人形の目現象、頭を振られた方向に目が向いてしまう)、睫毛反射、髄膜刺激徴候(首が硬いか)、四肢筋緊張、上肢落下試験、自動運動左右差、深部腱反射、病的反射
 
急性の意識変容+神経学的巣症候なし≒頭蓋内病変なし
例外は①慢性硬膜下血種、②記憶障害、海馬の障害 メインは後方循環系=視野に関係
Anton盲 見えてないのに見えていると言い張る
 
慢性硬膜下血種を疑ったら聴性打診
→前頭洞に一致する部位を打診し左右の頭蓋に聴診器を当て聴診 血種あるほうに打診で減弱
 
〇高齢者の歩行障害
特発性正常圧水頭症による歩行障害 がに股で歩幅が広い
 
〇高齢者の脳血管障害
ラクナ梗塞 まめいや構音障害単独では典型的ではない
→構音障害があるときに麻痺があるかどうかが大事
上肢脱力の診断
腕回し試験(麻痺側の周りを健側が回る)、指のtapping、バレー徴候(腕を伸ばしたときに回内する)
ベッドサイクリング試験 感度高い 筋力を見るときは回させるのが良いよう
 
〇高齢者の骨折
大腿骨頸部骨折 聴性打診 
恥骨上に聴診器を置いて膝蓋骨を打診し、折れているほうが弱い
 
無症候性脊椎圧迫骨折 
壁と後頭部がつかない
肋骨と骨盤の間<2横指
 
(投稿者:斉藤 揚三)