当院での減薬の1例
症例:94歳 女性
経過:平成30年1月に転倒して左肩を骨折してから寝たきり状態となり通院が困難となったため当院の訪問診療を希望された。
平成30年3月から当院の訪問診療が開始されました。初診時の状態ですが、認知症により意思疎通はできませんでした。食欲不振もあり、1食あたり数口程度の摂取量でした。また頻尿があり、診察中もポータブルトイレに移るような状態でした。ADLはほぼ寝たきり状態で、全介助でポータブルトイレに移るレベルでした。仙骨部に褥創がありました。
前医で処方されていた薬は以下になります。
problem listを作成し、どのように減薬したのかを書いていきます。
ベシケアOD錠5mg 1錠
バルサルタン錠80mg 1錠
ルーラン錠4mg 1錠 分1 朝食後
ラシックス20mg 1錠 分1 朝食後 隔日
メマリー錠20mg 1錠 分1 夕食後
メチコバール錠500μg 2錠 分2 朝夕食後
ロゼレム錠8mg 1錠
ベルソムラ錠10mg 1錠
プルゼニド錠12mg 2錠 分1 就寝前
リスパダール内用液1mg/ml 0.5ml 不穏時頓用
problem list
#1 認知症
前医より精神科に紹介されており、精神科では、脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症の診断で、ルーラン4mg、メマリー20mg、メチコバールが処方されていました。ルーランは非定型抗精神病薬です。介護者より、ルーランの処方前後で精神状態に変化はなかったとのことだったので中止としました。メマリー(メマンチン)はNMDA受容体拮抗薬で、中等度および高度アルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制する薬です。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」ではコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチンの終了基準として、①意思疎通が図れない、寝たきり状態または身体障害が悪化した患者、②明らかに薬物の効果が認められなくなった場合、③何らかの有害事象を発生した場合、があげられています。当症例は①および③に該当していると考えられたため、20→10→5mgと診察の度に減薬し、最終的に中止しました。また、採血でビタミンB12は足りていたのでメチコバールは中止しました。
#2 頻尿
前医では過活動膀胱治療薬のベシケアが処方されていました。しかし効いている感じはなく、また抗コリン作用により認知症を悪化させている可能性もあるため中止しました。中止しても頻尿の悪化はありませんでした。また、メマリーの副作用に頻尿があり、メマリーも止めたことで結果的に頻尿は改善しました。
#3 食欲不振
多剤併用やメマリーにより食欲不振となっている可能性がありました。当院ではラコールを処方しました。その後、食欲はありすぎるくらいに改善し、ラコールは不要となりました。
#4 仙骨部2度褥創
寝たきり状態になっているため褥創ができたと思われました。初診時にケアマネージャーに高機能エアマットレスの導入を指示しました。ワセリンの塗布を指示しただけですが、エアマット導入により1か月で上皮化しました。
#5 高血圧症
バルサルタン80mg、ラシックス20mgが処方されていました。ラシックスは隔日投与のため服薬コンプライアンスに不安があります。初診時採血でCr0.88、eGFR44.8mL/minと腎機能が中等度~高度低下していました。腎保護作用のあるARBのミカルディス20mgの1剤の処方としました。
#6 不眠症
ベルソムラ10mg、ロゼレム8mgが処方されていました。ベルソムラは10mgが処方されていましたが、添付文書どおりの15mgを処方しました。ロゼレムは止めましたが、内服していたほうが眠れるようだとのことで、途中で再開しました。
#7 便秘症
ベシケア、メマリーの副作用に便秘もあります。中止により便秘はやや改善しました。前医から処方されていた下剤も大量に余っていたので、調整して使ってもらうようにしました。
#8 左肩関節脱臼骨折後
初診時より左肩痛はなく、なにもしていません。
2か月後の当院の処方
ミカルディス20mg 1錠 分1 朝食後
ベルソムラ錠15mg 1錠
ロゼレム錠8mg 1錠 分1 就寝前
結果的に8剤から3剤に減薬しました(下剤は除く)。初診から2か月くらい経過しましたが、服薬調整によって、食事摂取量、頻尿、BPSD(認知症の周辺症状)ともに改善しました。
訪問診療のいいところは、総合的に診ることで、処方の優先順位をつけて減らすことができる点です。疾患の数だけ専門科にかかっている場合は、このような減薬は難しいはずです。超高齢化社会を迎える日本では、今後、このような診療が求められているのではないかと考えています。
(投稿者:斉藤 揚三)