死亡確認にまつわる様々な疑問④
実際の臨床現場でありそうな例をあげて、私と「法医学者(医師)F先生」とで行ったやり取りを引き続き公開いたします。
例4.うつ病でかかりつけの患者。
最後の診察は1週間前で、うつ病の症状はかなり軽く落ち着いていると判断された。
首を吊っているところを家族に発見され救急要請。
救急隊現着時に死後硬直などなく、救急搬送された。
来院時心肺停止状態(モニター上は無脈性電気活動)で、蘇生により心拍再開。
集中治療室で経過をみたが、意識回復なく家族も積極的な加療を希望せず。
1か月後、呼吸停止し、蘇生は行わず永眠。
私: 直接死因は「縊頸」で、死因の種類は「自殺」とすればよいのでしょうか?それとも直接死因は「縊頸」その原因「うつ病」、死因の種類は「病死」なのでしょうか?
F先生:直接死因「縊頸」はその通りです。外因死ですので異状死体の届出をします。警察が来ますので死因の種類に関しては警察と相談の上、警察の決定に従って下さい(判断の責任も警察)。縊頸は自殺で殆ど問題になることはありませんが(縊頸でも例えば自慰行為の手段でまちがって死んだ場合は事故死です。ごくまれですが)、飛び降りや入水では事故死のこともありえます。生命保険の請求でもめることがありますので、検視に来た警察官が「自殺で大丈夫」と言った場合、「生命保険会社から警察に照会が来たら自殺と断定して回答するか」と聞いて下さい。飛び降りや入水で遺書がない場合等は「断定しない」ということが多いので、その場合死因の種類は「11.その他及び不詳の外因(捜査中)」で発行するのが無難です。
直接死因を「縊頸」その原因「うつ病」、死因の種類は「病死」とする案についてですが、このような場合は通常「Ⅱ直接には死因には関係しないが…」に「うつ病」(他院であれば「うつ病(伝聞)」)と記載するのが習わしになっています。
私:こういうところは警察に一任して判断してもらっていますが、「断定かどうか」を聞いておくってのは「なるほど!」って感じです。「11.その他及び不詳の外因(捜査中)」ってのはプロっぽい書き方ですね。その辺の臨床医でこれを書ける人はいないでしょう。
私:うつ病が重度で入院治療中の場合でも同じなのでしょうか?
F先生:同じです。
私: 死亡の原因(イ~エ)はその前の原因(ア~ウ)に対してどの程度の因果関係がある場合に記載するのでしょうか?1%でも可能性があれば記載するのか?80%以上くらいなのか?よくわかりません。
F先生:医学的因果関係がある場合とあり明確な基準はありません。医師の裁量に委ねられているというのが現実です。現実的に問題となるのは生命保険関連なので、後日照会が来た場合、関連あるなしを根拠をもって答えられるように記載する以外にないと思います。死因を確定できない場合には「その他特に付言すべきことがら」に「○○病にて通院中であったが死因との関連は不明」と書いてもよいと思います。
私:本当に金がからむと怖いので、「関連あるなしを根拠をもって答えられるように記載する」ってことは心がけているつもりですが、「○○病にて通院中であったが死因との関連は不明」っていうのはナイスな書き方ですね。今後使わせていただきます。
(投稿者:斉藤 群大)