認知症の行動・心理症状に対する薬物療法
施設入居時などに、環境が変わったことが契機となり、認知症の行動・心理症状(BPSD)がひどくなり、昼夜問わず暴れて手がつけられなくなる方がいます。当院では、施設の窓から飛び出してしまった方、介護者の首を絞めた方、ドアを蹴ったり椅子を投げたりした方を経験しています。
そのような時は、まずは非薬物療法(ユマニチュードなど)で対応すべきですが、非薬物療法だけで全てを解決できるわけではないので、薬物療法を行わざるを得ません。
今回は、当院における、認知症のBPSDに対する薬物療法についてまとめてみました。
・コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ)は興奮、不穏、易怒性、攻撃性などの副作用があるため中止する。
・ベンゾジアゼピン受容体作動薬(デパスなど)は認知機能を低下させるため、漸減中止する。
・処方例
①セロクエル錠25mg 2錠 分2 朝夕食後
②メマリー錠5mg 1錠 分1 就寝前
③抑肝散7.5g 分3 毎食前
④デエビゴ錠5mg 1錠 分1 就寝前
①セロクエルなどの抗精神病薬を使用すると、死亡率や転倒リスクは上がりますが、介護者を守るためにはやむを得ないと考えます。セロクエルは鎮静作用が強く、半減期が短いため翌日への持ち越しが少なく、錐体外路症状が少ないなどの利点から、第一選択としています。食欲増進作用もあるため、BPSD+食欲不振には良い適応です。セロクエルには12.5mgの低用量の錠剤もあり、少量から始め徐々に増やしていくのが一般的ですが、一気に火種を消すイメージで過鎮静気味になるように100mg/日で処方し、落ち着いてから漸減するのも最近は良いのではないかと考えています。セロクエルは糖尿病には禁忌であり、また、投与後に血糖値が上がってくる方もいるので、定期的な血糖チェックが必要です。糖尿病がある場合は、リスパダールを使用します。リスパダール錠0.5mg 2錠 分2 朝夕食後などが処方の一例。リスパダールには液剤があり、不穏時の頓用(0.5-1ml)としても使いやすいです。錐体外路症状は起こりやすいので注意が必要です。
②メマリーは認知症の治療薬というよりは、鎮静効果を期待して処方します。めまいや眠気の副作用があるので、就寝前に処方します。
③抑肝散は効く人には効きますが、全く効かない方もいます。安全な薬ですが、食欲不振や偽性アルドステロン症の副作用もあるので、効かない方に漫然と続けないようにします。
④眠剤としては、認知機能に影響を及ぼさない、デエビゴかデジレル25-50mgを使用します。
処方後は、鎮静具合や副作用を確認しながら、①〜④の量を増減して、最適量を決定していきます。これで大部分のケースに対応できます。
(投稿者:斉藤 揚三)