高齢ドライバーの重大事故に思うこと
平成30年5月28日、神奈川県茅ケ崎市で90歳の女性が交差点で4人をはね、死傷させるという事故が起こりました。
昨今、高齢者によるアクセルとブレーキの踏み間違いや、高速道路の逆走などによる重大事故のニュースがたびたび報道されます。
背景には、高齢に伴う認知機能の低下が大きく関与していると思われます。実際に平成29年に交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、検査を受けた385人の49%にあたる189人が、認知症や認知機能の低下があると判定されたそうです。平成29年に施行された改正道路交通法では、75歳以上の運転手は3年ごとの免許更新時に認知機能検査を受け、認知症の恐れがあると判断された場合、医師の診断が義務化されました。認知症と診断されれば、運転免許は取り消しになります。
しかし、冒頭の事故のケースでは、認知機能検査では問題なしだったようです。認知機能検査だけでは、事故は防げないことになります。
報道では決してされませんが、私は仕事柄、事故を起こした方の服薬状況が気にかかります。認知機能を低下させる薬を内服していなかったかどうかです。特に問題となるのはベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗精神病薬などです。こういった薬の中で、効果が長く持続する薬(医学的には半減期が長い薬)を内服していなかったか、あるいは高齢者は薬の代謝が落ちているので、就寝前に内服した薬の作用が次の日まで残っていなかったかなどです。
こういった事故が起こるたびに湧き上がる議論として、一定の年齢になったら一律に運転免許を返納すべきではというものがあります。そうすれば確かに交通事故は減らせるでしょうが、これは暴論と言えます。というのも70歳で認知症の方もいれば、90歳で何の問題もない方もいて、高齢者は個人差が大きく年齢でひとくくりにできないからです。また、田舎では特に車がないと生活が成り立たなくなっており、高齢者の死活問題になってきます。
この問題は簡単に解決できるようなものではなく、社会全体で考えるべき問題ですが、医師ができることは、できるだけ認知機能に影響するような薬を処方しないことだと思います。認知機能に影響を及ぼすとされている薬のリストを載せておきます。秋下雅弘先生のスライドより抜粋しました。
(投稿者:斉藤 揚三)