高齢者の下痢時の対応
今回は高齢者診療でよく遭遇する、下痢時の対応について書いていきます。
まず生活指導として、水分を積極的に摂ることを指示します。水分を摂るとますます下痢をすると考え、水分摂取を控える方がいます。しかし、下痢によって体から水分が失われますから、むしろいつもより水分は多く摂らなければなりません。水分以外にミネラル分も失われるため、飲む点滴といわれている経口補水液(OS-1など)がいいかもしれません。
また、PPI(プロトンポンプ阻害薬)を内服していないかどうか確認することが必要です。PPIの副作用に下痢(collagenous colitis)があるので、疑わしい場合はPPIを中止します。
下痢は、有害物質を体外に出す防衛反応という解釈もできるため、無理に止めることはいいことではありません。特に急性下痢症の場合、止痢薬(下痢止め)はできるだけ使わないほうが良いです。処方するとしたら、整腸剤や漢方薬にします。
実際の症例をあげてみます。
88歳 女性
初診までの経過:H30.6~下痢が続き、かかりつけ医で止痢薬が処方されるも改善なく、病院の消化器内科に紹介された。採血やCTでは異常なく、下部消化管検査は高齢のため希望されず経過観察になった。その後も下痢が続き、全身倦怠感、食欲不振のため、H30.10に病院に入院となった。絶食としたところ下痢は改善したが、食事を再開したところ、再び下痢となり、再度絶食となった。食事は不能と判断され、H30.11~中心静脈栄養での管理となった。その後、施設に退所し、当院の訪問診療が開始された。
前医の処方:ミヤBM細粒3g 分3 毎食後
初診時の状態:1日2~3回下痢はありました。中心静脈栄養の点滴をしながら、ミキサーとろみ食を食べていました。
治療方針:こういった症例は、西洋医学では整腸剤や止痢薬を処方するくらいしかできませんが、東洋医学では対応できます。整腸剤は続けながら、漢方薬を処方することにしました。
処方:真武湯合人参湯(真武湯 7.5g 分3 毎食前、人参湯 7.5g 分3 毎食前)
治療経過:漢方薬服用を続けていたところ下痢は落ち着き、食事摂取量も増えました。このままいけば、中心静脈栄養から離脱できそうでしたが、腎盂腎炎を発症し、入院してしまいました。