CO2ナルコーシスの誤解
CO2ナルコーシスとは、高CO2血症によって、意識障害などの中枢神経症状を呈している状態を言います。
CO2ナルコーシスはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などにより、慢性的にCO2がたまった患者さんに起こります。
このCO2ナルコーシスは酸素投与によって起こることもありますし、CO2ナルコーシスに陥っている時に、さらに酸素を投与すると、呼吸停止をきたすとさえ言われています。
その機序は、正常の人は血中CO2濃度の上昇によって呼吸中枢が刺激され呼吸していますが、慢性的な高CO2血症がある方は、低酸素血症だけが呼吸中枢を刺激しているので、酸素投与によって呼吸中枢への刺激がなくなり、呼吸が止まるというものです。
このことは医療職の間ではよく知られたことなのですが、CO2ナルコーシスを危惧するあまり、「本当に酸素が必要な場合に酸素投与が控えめになってしまっている」という弊害が生じています。
慢性の高CO2血症がある患者であっても、急激に呼吸状態が悪化している場合には、躊躇なく高濃度酸素を投与しなければなりません。
その場合、SpO2が90%前後になることを目標に(普段のSpO2のデータがわかればそれを目標に)酸素を投与します。決して100%を目指してはいけません。
慢性の高CO2血症があるかどうかが分かる手段として、COPDの病歴を把握しておくこと、過去の高CO2血症の検査値を把握しておくこと、外見(やせた高齢者で胸郭の変形がみられるなど)でも判断できます。
万が一、慢性の高CO2血症がある患者に高濃度酸素を投与したことで呼吸が止まってしまったとしても、酸素濃度を下げて、バックバルブマスクで強制換気することやNPPV、挿管および人工呼吸器管理で対応することができます。
一方、低酸素血症による臓器障害や脳症は不可逆的であり、取り戻すことはできません。
(投稿者:斉藤 揚三)