エルデカルシトールによる高カルシウム血症について
2020年10月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)から「エルデカルシトールによる高カルシウム血症と血液検査の遵守について」という文章が配布されました。
このような文章が配布される背景には、エルデカルシトールによる高カルシウム血症の症例が相当数あり、大きな問題になっているのではないかと推察されます。それほど症例数が多くない当院でも、何例もの症例(自験例も含む)を経験しています。
骨粗鬆症治療薬であるエルデカルシトールは、同じ活性型ビタミンD₃製剤である、アルファカルシドール、カルシトリオールに比べて、骨密度上昇効果、椎体骨折予防効果が優れています。また、転倒抑制効果を有すると言われており、このことからも、よく処方される薬です。
しかし、治療効果が高い反面、それだけ高カルシウム血症を起こしやすい薬だと考えられ、処方には注意を要します。
当院で経験した症例を振り返ってみると、以下のような問題点が挙げられます。考えられる対策とともに列挙します。
①食欲不振で紹介されたが、エルデカルシトールを内服していた。
エルデカルシトールを内服中の方が食事が摂れなくなった場合には、エルデカルシトールの中止を指示する。骨粗鬆症治療は命に関わらないが、高カルシウム血症は命に関わる。
②腎機能が低下している方にエルデカルシトールが漫然と処方されていた。
高カルシウム血症のリスクが高いため、腎機能が低下している方にエルデカルシトールは処方しないのが大原則。特に、高齢者は腎機能が低下している方が多く注意が必要。処方前には腎機能を評価をする。また加齢とともに腎機能は低下するので、経時的な評価も必要。夏場の脱水による腎不全にも注意。
③寝たきりの方にエルデカルシトールが漫然と処方されていた。
寝たきりの方は転倒することもないので、骨折のリスクは低く、骨粗鬆症治療の優先度は低い。
④エルデカルシトールを内服中だが、家族が薬だけを取りにいっており、長期間血液検査がされていないと思われる。
エルデカルシトールを内服中の方は血清カルシウム値を定期的(3~6カ月に1回程度)に測定する。
⑤エルデカルシトールとともにカルシウム製剤も処方されていた。
エルデカルシトール単独でも高カルシウム血症のリスクがあるが、血清カルシウム値が上がるカルシウム製剤、PTH製剤を併用すると高カルシウム血症のリスクはさらに高まる。カルシウムのサプリメントを飲んでいないかも注意。併用するならSERM、ビスホスホネート製剤が望ましい。
まとめ:エルデカルシトールは慎重に処方しなければならない薬で、サプリメント的に気軽に処方すると痛い目にあいます。
※参考資料:ビタミンD₃製剤による急性腎障害の機序(中外製薬 医療関係者向けサイトより)
高Ca血症に起因すると考えられています。高Ca血症では抗利尿ホルモンへの反応性を低下し、多尿、脱水から腎前性腎不全に陥ります。また、高Ca血症の存在による尿細管障害や尿細管閉塞、またカルシウム高値による腎血管収縮が引き起こす糸球体濾過低下、ナトリウム利尿やADH(抗利尿ホルモン)作用不全による水利尿が引き起こす体液量低下などによる糸球体濾過率の低下が、さらにCa排泄を低下させ、高Ca血症を増悪させるという悪循環に陥ります。
(投稿者:斉藤 揚三)