歩いてしまって大変です
2021.07.13
施設のスタッフから、「勝手に立ち上がり歩こうとして危ないです」と診察時に相談をうけました。
この方は90代の女性で、認知症があり、勝手に歩かないように言ってもすぐに忘れて歩き出してしまうとのことでした。ちなみに、転倒して胸椎圧迫骨折を受傷した既往があり、転倒リスクは高い方です。
このようなケースはよくあります。
当院からは、「歩ける人が歩こうとするのは止められないので、むしろ歩行器で歩くようにした方が良いのではないか。しかし、転倒のリスクは避けられないので、家族の理解も必要です。」と返答しました。
歩かないようにさせるには、抗精神病薬を大量に使うことでぐったりさせて、薬で拘束するか、あるいは、車いすに縛り付ける身体的拘束が考えられますが、どちらも人道的にいかがなものかと思います。
立って歩くということは人間としての尊厳でもあります。歩かせないということは、人間としての尊厳を奪っていると思います。
冒頭の症例の患者さんは、家族に転倒のリスクを許容してもらい、結果的に、自由に施設内を歩くようになっています。
もちろん、転倒して骨折し、それが元で寝たきりになるかもしれませんが、人間としての尊厳は保たれたと言えるのではないでしょうか。
このような施設が増えていってほしいと思っています。
(投稿者:斉藤 揚三)
カテゴリー:在宅医療・訪問診療