高齢者の不眠症への対策
今回は当院における、不眠症対策を書いていきます。
在宅医療をしていると、高齢者の不眠症に対する相談が多くあります。
高齢者の不眠は生理的変化の一つで、実際に寝ている時間は加齢とともに短くなり、高齢者では6時間以下と言われています。
高齢者は熟眠感を得られる徐波睡眠の時間が短くなり、また中途覚醒時間が長くなります。
まずは睡眠の具体的な状態を詳しく聞きます。
・眠剤の内服時間
・就寝時間
・入眠までの時間
・中途覚醒の有無
・起床時間
・昼寝の有無
・日中の覚醒状態
などです。
たとえば、とある施設では、昼寝の時間があり、18時に夕食を摂り、19時に就寝するというスケジュールのところがあります。
この施設の入居者が不眠だと言われても、本当に不眠なのか疑わしいです。
当院の基本的な方針としては、ベンゾジアゼピンを極力処方しないようにしています。
ベンゾジアゼピンは、依存性があったり、認知機能が低下したり、せん妄を惹起したり、筋弛緩作用により転倒や骨折、誤嚥性肺炎のリスクが上がったりと問題が多すぎるためです。
昨今問題になっている高齢者の自動車事故(病院の玄関に突っ込んだり、高速を逆走したり)が、実はベンゾジアゼピンの内服が背景にあるのではないかとも言われています。
アメリカではプライマリケア医は、ベンゾジアゼピンを処方することができないようになっているようです。
①生活指導
昼夜逆転傾向がある場合は、日中にできるだけ刺激を与え起きてもらえるように指導します。昼寝をさせず、運動させるのが良いです。
また、施設などの場合、眠剤を寝る直前ではなく夕食後の18時などに内服させている場合があるために、21-22時前に内服しないように指導し、処方箋のコメントにも「21-22時前に内服しないように」と書いておきます。
また、寝ている人を起こして眠剤を飲ませるといった本末転倒のケースもあるため、できるだけ頓服として処方します。
②デジレルを処方
処方例
デジレル25 or 50mg 1錠 分1 就寝前
デジレルは抗うつ薬ですが、深睡眠を増やすと言われています。副作用が少なく依存性もないため使いやすいです。
③夜間に不眠というよりはせん妄が起きていそうな時は、抑肝散やセロクエル、ロゼレムを処方
処方例(下記のいずれか)
抑肝散2.5g 1包 分1 就寝前
セロクエル錠25mg 1錠 分1 就寝前 (糖尿病では禁忌)
ロゼレム錠8mg 1錠 分1 就寝前
④非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を処方
処方例
アモバン7.5mg 分1 就寝前
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用が弱く使いやすいですが、それでも転倒のリスクは上がります。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬だから安全というわけではありません。
また、ルネスタはアモバンの苦みが抑えられている点は良いのですが、薬価の高さに相当するメリットを感じられないため処方していません。
⑤ベルソムラを処方
処方例
ベルソムラ15mg 分1 就寝前
アモバンだと中途覚醒してしまうようであれば、ベルソムラを処方します。
最小の15mgでも高齢者に使うと、翌日まで持ち越してしまうことがよくあり、今後10mgが処方できるようになればと思っています。
⑥昼夜逆転にシンメトレルを処方
処方例
シンメトレル50~100mg 分1 朝食後
日中に覚醒してもらうために、シンメトレルを処方することがあります。
(投稿者:斉藤 揚三)